《MUMEI》

斎藤アラタは白い。

細胞から不純な色素を抜かれた白さがあった。

包帯が彼の左目から離れているのを見たことがない。
見た目も手伝って儀式的なものとさえ思えてくる。


手術用ゴム手袋で常に物体を直接触れるのを防いでいて、ベージュの長めのセータで隠していた。

か細い体は病人の儚さを、朗読でたまに耳にする声は夢の中へ誘うように心地よい。
誰しも彼に見とれ、一挙一動に注目した。

暗い教室で蔭り帯びた彼の瞳には硝子のように外が映り込み、何を考えているか分からない。


分かってしまってはいけないから理解しないようにしているのかもしれない。

窓の外ではゆったり雲が流れていく。
変化はあまり感じられないが、いつの間にかいなくなってまう。だから、瞬きさえ不要なのだ。



アラタの指先から消しゴムが零れた。
すぐ席を外して屈む。
樹の角度からは机で殆ど見えない。


拾い終わってアラタがモーションのように動いた。


   ゆっくり


   ゆっくり


机から離れていく。








 白い
   しかし緋い

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