《MUMEI》 「もしかして、怒っているかい?」 「そんなことないです、断じて」 口にしてから後悔した。 断じて、なんて使うものじゃなかった。 強調すると、嘘みたいに聞こえる。 「七生を取り上げてごめんね?私の我が儘に付き合わせている。」 「そんな……」 「リサもそうやって、すぐ嘘つくんだよね。嘘つくとき、目が動くんだ、嘘の動きさ。」 修平さんの人差し指が俺の下瞼を剥く。 「は、はあ……」 黒目の大きな瞳でじっと見つめられると、七生のこと思い出してしまう……。 「あ、今は考え事しているね?考え事しているときは目線が少し下にずれる、」 洞察力が凄い、七生も勘だけは異常にいいけれど。 「なんか、心が読めるみたいですね。」 乙矢の安心感のある超能力とはまた別の、不思議なかんじ。 「……なんだか二郎君を見てたら、昔、家にあったビスクドール思い出した。」 修平さんの手の平がすっぽり俺の頬を覆った。 「ビスクドール?」 いけない、 なんか…… 修平さんの手が触れると七生のこと考えてしまう。 「人形だね。 ……あ、やっぱり二郎君、キモチイイ。」 「え……」 低音が七生の声にそっくりで、条件反射で痙攣した。 「七生の件、協力して欲しいな?」 そんな風にお願いされると、負けてしまう。 「は、はい……」 駄目だあ……勝てない。 「ありがとう。」 きっと、この笑顔にリサさんも敵わなかったんだろうな。 前へ |次へ |
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