《MUMEI》 . …………急に、不安になった。 それがなぜなのか、 理由は、わかっている。 将太が《夢》を見つけたのだ。 彼は、とてもうれしそうだった。 なにかを企んでいるらしく、彼はその《夢》を教えてくれなかった。 わたしは、笑っていたけれど、 心は、どんより重かった。 将太は、輝かしい未来に向かって歩き出そうとしているのだ。 わたしが、見ることの出来ない、未来へ向かって。 また、取り残されてしまう。 失ってしまう。 大切なものを。 愛しいひとたちを−−−−。 「具合、悪いの??」 不意に将太の声がして、わたしは顔をあげた。心配そうに眉を歪ませた彼の顔が視界にうつる。 わたしは、彼をまっすぐ見返し、 ほほ笑む。 「どうして?」 尋ねると、将太はわたしから目を逸らし、手にしていたボールを弄んだ。 「今日、顔色悪い……」 鋭い子だな……と、人ごとのように感心した。 このところ、わたしの体調は頗る悪く、食事もほとんど摂れていない。 こうして将太と会って、家に帰るとベッドに横たわったまま、眠り込んでしまう。 身体を起こしているのが辛い。 目を開けていられない。 覚えているのは、暗闇だけ。 こうやって、ひとは誘われていくのだろう。 永遠の眠りの中へ。 わたしは将太に向かってほほ笑み、大丈夫だよ、と答えた。 もちろん嘘だ。 今、こうしてベンチに座っているのも、正直しんどい。今すぐベッドで横になりたい。 でも、それを将太に話すことはなかった。 言ってしまったら、 全部、終わってしまうような気がして、 とても怖かった。 将太はわたしの返事に納得しなかったようで、真剣な目をわたしに向けた。 「今日は帰ろう。早く休んだ方がいいよ」 言い切ると勝手に帰り支度を始めた。その周りをヒューが鼻を鳴らしながら纏わり付く。まだ、遊び足りないのだろう。 将太もヒューの気持ちに気付いたのか、ヒューの頭を優しく撫でた。 「また明日な!」 わたしは将太とヒューのじゃれ合う姿をぼんやり眺める。 −−−マタ アシタ ナ ! わたしには、遠すぎる台詞だ。 だって、 わたしの《明日》は、 もしかしたら、やって来ないかもしれないのに。 わたしと、将太と、ヒュー。 それぞれがすれ違う、わたしたちの姿を、 色鮮やかな百日草だけが、 穏やかに見つめていた−−−。 . 前へ |次へ |
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