《MUMEI》 波乱の予感. 久しぶりに、登から電話があった。 ずっとシカトしていたのだが、登には予備校を辞めることを、あらかじめ伝えた方がいいと思い、その電話に出た。 「よぉ、久しぶり」 のんびりとした口調でそう言うと、登は急にわめき立てた。 『久しぶり、じゃねーよ!!メールも電話もシカトしやがって!!お前、なんで予備校来ないんだよ!』 カンカンに怒っているというふうだった。 俺は軽くそれを受け流し、簡単な調子でゴメンゴメン、と謝った。 「ちょっとさ、忙しかったもんで」 『忙しかったって、どーすんだよ!授業、ついていけなくなるぞ!?』 間髪入れずに言い返した登に、俺は、あ〜……と曖昧に唸った。 「そのことなんだけど、俺、予備校辞めるわ」 一瞬、登は押し黙る。 少しの沈黙のあと、彼は『はあ!?』と声をあげた。 『辞めるって、なに??どーいうこと??』 納得がいかないと言わんばかりに返してきた。尋ねてきた登に俺は落ち着いた声で答える。 「専門学校に、進学しようと思って」 『……専門?』 訝しげな登に、俺は事情を説明した。 百々子さんの存在。彼女の犬のこと。彼らと触れ合って、ドッグトレーナーを目指そうと思ったこと。 それらをかい摘まんで伝えた。 「この数週間、楽しかったんだよね。それが仕事で出来るなら、ベストなんじゃないかなって思ったんだよ」 登は黙って俺の話を聞いていた。 そして、最後に呟いた。 『将太が自分で見つけた道なら、仕方ないよな……』 『頑張れよ』、と付け足す。俺も、お前もな、と励ました。 そこで登は、思い出したように言ってきた。 『のぞみは、そのこと知ってるの??』 《そのこと》というのは、たぶん俺が予備校を辞めて、専門学校に進むことを言っているのだろう。 進路の話をしたのは、登が初めてだ。 のぞみと話したのは、予備校をサボった2日目以来だ。そのあとメールや電話が何回かあったが、返事をしていない。 . 前へ |次へ |
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