《MUMEI》
帰さない
「…何見てんだよ。」

あの時と同じ様に、冷めてしまった料理を温め直してテーブルに向かっていると、リョウが加奈子を睨みながら言った。

「何か怒ってない?」
「別に。」

否定はするが、やはりリョウはムスッとしたままだ。
それを見た加奈子は、ニヤニヤしながらまた質問した。

「じゃあ照れてる?」
「てっ照れてねぇよ!!」「ふ〜ん。」
「お前なぁっ!!」

ムキになるリョウが面白かった。

リョウにとって加奈子は初めて出来た友達だ。
それが嬉しくて、こんな態度をとってしまうのだ。


あまのじゃくだからなぁ。

加奈子もそれが分かっていたから、もうそれ以上は突っ込む事はしなかった。

「コレ、使いなよ。」

鋭く伸びた爪が邪魔して、箸使いがもたつくリョウを気遣かい、加奈子はフォークを差し出した。


「…悪ぃ。ありがと…」
「どういたしまして。」

しかしリョウはフォークを見つめたまま、一向に食べようとはしない。

「どうかした?」

不思議に思った加奈子が尋ねると、リョウは申し訳なさそうに言った。

「俺、帰るわ…」
「何で!?私何か気に障ることした?」

いきなり“帰る”なんて言われものだから加奈子は焦った。


私また空回りしてる…?


しかし男は、そうじゃないと首をふる。

「俺、此処にいたらあんたに迷惑掛けるから…。だからもう帰るよ。」

そう言いながら、玄関に向かおうとするリョウの腕を加奈子はおもいっきり掴んだ。
「…っ!何すん‥」
「本当は帰るとこないんでしょ?」
「な…っ」
「記憶のない、しかも何かに追われてるあんたが、部屋なんか借りれる訳ないよね?違う?」
「………。」

俯いたままのリョウを見れば、それは明らかだった。

「やっぱり。」
「でも此処にはいられない!!」

頑なに拒むリョウに負けない位の声で、加奈子も言い返した。

「私は帰さないよ!!」

言った瞬間、自分の顔が赤くなるのが分かった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫