《MUMEI》

「また来週も、よろしく頼むわね。」


「・・・悪い。もう今日で最後にしたい。」


私は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれないと思いながらも、息をする音さえも立てないように、じっと二人の会話を聞いていた。

「え?最後って・・・あんたが他の女抱けないから、買ったあげてるんでしょ?」

「・・・。」

「ふーん。まぁいいわ。」

笠原先生の去る足音が、私の隠れている階段下まで響いていた。

それとは逆に近づいてくる足音に、私は体を硬直させた。逃げ出したい・・・。
だけど、それが叶わないところまで名波先生の足音は近づいていた。
人の気配に気付いたのか、下を向いて歩いていた先生の顔が上がり、ピタリと目があった。


「広崎・・・。」

私は無表情のまま立ちつくしていた。たまたま後ろからアパートの住人が来ていて、じろじろと怪しげに私たちを見ている。

先生は住人に軽く会釈して、私を部屋へと促した。



「何で来た。」
冷たい声が、悔しくて私は先生を睨みつけた。

「どういう関係なの?」
強気でいたい気持ちとは、裏腹に、震えた声になってしまう。

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