《MUMEI》

「遅れて申し訳ありません、新しく担当させていただきます小暮国雄です。」

爽やかな早春の風のように現れた……。


「あの……なんで?」

国雄が此処に?
気の利いた言葉の一つも出ない。


「はい、握手。」

国雄は営業用の笑顔で社長と意味ありげに目線を合わせながら俺に握手を求めてきた。


「光の携帯に出てくれたとき凄く良いかんじの人だなと思っていてね。国雄君とは何度か話しているうちに意気投合したんだよ。
彼なら、光の新しいマネージャーに申し分のない逸材だろ、むしろもっと高みを目指せるだろうね。」

国雄に完璧に懐柔されている……俺もその一人だが。


「……よろしくお願いします。」

とりあえず、握手してみた。


「ところで、時間に余裕無いからすぐにでも現場に向かいたいのだけれどいいかな?」

国雄が時計を見るだけで様になる。


「金髪のまねいじゃて……」


「カッコイイよね、国雄君。」

社長、それでいいのか?
厄介なことに、国雄はこの俺が惚れただけあって魅力的であり、それは他人から見ても同意見である。
国雄に胸をときめかせたかをアンケート取らせたら大変なことになるだろう。
また、いつものホストと別の敏腕まねいじゃ振りで新たにときめいた。

俺のタイムスケジュールは全て頭に入っているし、事前に現場で雨が降ると予測し、上着まで持っていた。完璧だ……。

さっきから、マジ狙いで国雄の横で熱心にアプローチしている女子が気になる。
よし、顔は覚えたからな。
国雄は男女どころか、老若男女問わず人気だ。
そして……監督?監督まで国雄に魅了されたのか!

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