《MUMEI》

「多分、嫉妬だわ。
個人的な理由で七生君を避けてはいるわね。リサさんは死んでもまだ、あの人の中で生き続けている。」


「七生はリサさんじゃないです。」


「リサさんとあの人との子供よ。」

鮎子さんがオレンジジュースに手を伸ばした。飲んでいる姿を見ていると喉が渇く、オレンジジュースの氷が溶けて、色が薄くなった。


「最初、リサさんは私の存在を知らなかったの……私に謝り続けながら、リサさんは自殺未遂した。
リサさんは……儚げで、まるで、空気みたいに綺麗だった。あの人、涙流しながらリサさんのこと庇うのよ。許してあげるしかないじゃない……。
だからかしら、私はリサさんのことを一生恨み続けるの。」

複雑な感情を飲み込むようにオレンジジュースは減ってゆく。


「七生はそのこと……」


「知らないでしょうね。貴方が言わなければ。」

首を縦に振って意思表示した。


「桜介の方がどうしても気にかかるの、親だもの。」

そうかもしれないけど、腑に落ちない。
まるで、七生は北条の家の牲えだ。


「確かに七生はリサさんの子供ですけど貴方の夫の子です。」

引くに引けない会話になっていた。


「嘘って嫌いよ、自分にも嘘をつくことになるでしょう?私はただ、正直でいたいのよ。」

鮎子さんて……強いかも。


「鮎子さんの言い分も分かります……七生は馬鹿だし、自分勝手だし……あれ……いいとこが無い……?」

七生のいいとこがみつから無い……!


「二郎君……、正直でいいのよ。」

負けた気がした……。

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