《MUMEI》 まさか、坊ちゃまが現れるなんて…… 「妖怪さん……?」 私は奥様の指示通りに旦那様を埋めた。 ただ、計算を誤り、坊ちゃまが生きていた。 私は火傷を負った旦那様を装い包帯を巻き付けやり過ごす。 坊ちゃまは事故のショックで記憶喪失になっていた。 可哀相に、あの優しい御両親も、記憶には残っていないのだ。 坊ちゃまはヒムロという日本人に助けられていた、奥様には内緒にしている。 このまま、記憶が無い方が幸せだからだ。 「ねぇ……逃げて来たんだ。見たんだよ!」 坊ちゃまは全身を震わせている。 「ダブルだよ。」 ダブル……もう一人の自分だ、それを見たら死んでしまうという言い伝えがある。 「おかしいと思っていたんだ。土に埋まっていたのにどうして此処にいるのかなって。ね?」 背筋が凍り付く、犯行現場を見られていたのだ……! 「あのね、君がくれた薬は僕のニーナが食べちゃったんだ。」 ニーナとは、坊ちゃまの愛猫だ。 随分長生きをしていたし、行方不明だと聞いて寿命だったのだとばかり思っていた。 「で、ね。代わりに臭いホットミルクを飲まされたんだよ……。ぼく、苦しかったなあ。」 坊ちゃまは、私が与えたペンダントの匂い嗅いだ。 睡眠薬のように、二錠飲めば安眠して死ねるという毒だ。 私は入っている毒を二錠全て飲むように坊ちゃまに教えた。 「あ、ぼくはちがうやつ。ニーナのはこれ、ね。」 坊ちゃまは一錠、ペンダントから毒を取り出し、飲み込んだ。 前へ |次へ |
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