《MUMEI》 . 夜中、家の外は、物凄い雨風が吹き荒れて、何度も何度も窓ガラスが激しく音を立てた。バケツをひっくり返したような、けたたましい雨音に、耳を澄ませる。 俺は、部屋を真っ暗にしてベッドに横になっていたが、寝付けなかった。 それは、台風の騒音のせいだけでは、ない。 ゆっくり、目を閉じる。 瞼の裏にうつるのは、 あの公園。 百日草が咲き乱れ、 そこの広場で駆け回る、凛々しいヒューの姿と、 それを優しく見守る、彼女の笑顔。 俺は目を開け、寝返りをうつ。 一体、どうしてこんなことになったんだろう。 しばらく、百々子さんと会えないだなんて、信じられない。信じたくない。 外で、なにかが風に吹き飛ばされるような、音がした。音の雰囲気から、たぶん、バケツかなにかだろうと、ぼんやり考える。 あてもなく地面の上を転がっていくバケツを想像しながら、 この台風が、今の俺の鬱屈とした想いを吹き飛ばしてくれたら、とくだらないことを思った。 鬱屈としたなにもかもを、どこか遠くへ飛ばしてくれたなら、この気持ちは、あるいは晴れるのかもしれない。 −−−−明日になって、 全部、嘘だったみたいに、 百々子さんが、ヒューを連れて、 いつものように あの公園で俺のことを 待っていてくれたなら。 《会えない》なんて冗談だよ、と いつものように 優しく、ほほ笑んでくれたなら………。 突然、突風が吹き荒れ、木々が激しくざわめく音と、建物の隙間を風が駆け抜ける音が響いた。 甲高いその風の音は、まるでだれかが行き場のない苦しい想いに、咆哮しているような切ないものに聞こえた。 それが、今の自分のこととリンクして、 あまりにミジメに思えて、 それを認めたくなくて、 俺は、きつく、目を閉じた−−−。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |