《MUMEI》

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百々子さんに電話をしてから、数日が過ぎた。


いまだに連絡は、ない。

だからといって自分から、彼女に連絡する勇気もなかった。


俺はため息をつく。


すると、キッチンにいた母さんが嫌そうな顔を俺に見せた。


「なに??あんた、朝からジメジメしてるわねー」


厭味を言ってきたが、無視した。母さんはダイニングに座っている俺に、朝メシを運んでくる。


「しっかり食べて、早く出掛けなさいよ。遅刻したら、みっともないからね!」


厭味を言い続ける母さんを軽く睨んだが無視された。母さんはさっさとキッチンに戻っていく。

諦めて、俺は目の前に並べられた朝食を見つめた。

ご飯にみそ汁、卵焼きに納豆、海苔、アジの干物………。





…………朝からこんなに食えるかよ。





心の中でひそかに毒づく。

でも、母さんの言う通り、遅刻はしたくなかった。


俺は箸を取り、いただきます……と呟いてご飯茶碗を持った。

ノロノロと食事を始めた俺に、母さんが大きい声で聞く。


「………で、見学会ってなにするの??」


俺は箸を止める。


…………そう。

今日は、専門学校の見学会。

学校の資料を請求するのと同時に、見学会の予約を入れたのだ。こういうことは早い方がいいと、高校の進路指導の先生がいつも言っていたから。



百々子さんに会えなくなった今となっては、少し後悔しているけれど。


彼女の応援なしで、この夢を追いかけるのは、無意味な気がしていた。


けれど、俺のわがままで予備校を辞めた今、そんなことを母さんに言ったら、殺されるかもしれない。


俺は顔をあげ、母さんを見た。


「なにするのって、見学だろ?」


テキトーな返事に、母さんは呆れたのか深いため息をついて、「そういうところ、お父さんにそっくりね」と文句を言った。俺は聞こえないフリをして食事を再開する。

母さんはキッチンを片付けながら、「……でも」と、つづけた。


「見学会に予約するくらいなんだから、あんた、本気なんだね」


しんみりした口ぶりだった。俺は顔をあげる。母さんは優しくほほ笑んでいた。


「大学に通った方がいいんじゃないかって思ってたけど、あんたにちゃんとした夢があるなら、話はベツ」


それから、母さんはニッコリ笑った。



「頑張れ、少年!」



思いがけないひとから、思いがけない激励をされて、俺は戸惑う。


…………でも、


なんだか、元気が出てきた。



俺は母さんに笑い返し、もちろん、と明るく答えた。


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