《MUMEI》

.


久しぶりに、ヒューの散歩に行こうと思った。


最近、身体が怠くて動けないから、お母さんや祐樹に任せてばかりだったけれど、わたしも気晴らしがしたかった。





一日中、家の中に篭っていると、



身体や、心、



わたしのすべてが腐ってしまいそうで。





「……無理しないでお家にいたら?」


お母さんが心配して玄関先までわたしを追いかけてきたけれど、わたしはきかなかった。


サンダルを履いて立ち上がるとお母さんを振り返る。


「行ってきます」


わたしがそう言うと、お母さんは諦めたようにほほ笑み、「いってらっしゃい」とだけ答えた。



玄関のドアを開け、ヒューを連れて外に出る。


容赦のない、太陽の熱。


歩くたび、体力が奪われる。



−−−それでも、



もしかしたら、明日は歩けなくなってしまうかもしれない。

そう思うと、この時間を一秒たりとも無駄には出来ないような気がした。


必死に足を動かして、しっかり大地を踏み締める。

ノロノロとした足取りに、ヒューも合わせてくれていた。



やっとのことで公園にたどり着く。



その頃には息が完全に上がっていて、肩を上下させながら、足を踏ん張って立っていた。


わたしは大きな木の下で、幹にもたれ掛かりながら、公園をぐるりと見渡す。


いつもと変わらない、閑散とした広場。咲き誇る百日草。



当たり前だが、



そこに、将太はいない…………。



わかっているのに、彼の姿を探している自分に気付いた。





…………バカみたい。



自分で、《会えない》って言ったくせに



もう、後悔してる………。





寂しい気持ちでいっぱいになった。



わたしは木陰のベンチを見つめる。


ベンチまで、あと少し………。


ゆっくりと足を踏み出した、



そのとき−−−。



隣にいたヒューが、突然、顔をあげたかと思うと、尻尾を激しく振り出した。


わたしはヒューを見る。


ヒューは目を輝かせて、公園の外の方を見つめていた。



その熱い視線を追い、



言葉を失う……………。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫