《MUMEI》

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真っ白なワイシャツ。グレーのチェック柄のズボン。明るい茶色に染めた髪。若くしなやかな肢体…………。


イマドキの男子高校生が、ひとり、歩いていた。



いつもと、雰囲気が、違って見えたが


間違い、なかった。


「………しょうた」


掠れた声で、彼の名を呼ぶ。



そして、すぐに木の影に身をひそめた。

後ろめたい気持ちがあった。

将太に素っ気なくしたこと。祐樹に傍にいてもらうと決めたこと。

そのふたつの理由が、わたしにそうさせていた。


将太は公園にいるわたしたちに気づかず、まっすぐどこかへ歩いていく。大木の影のおかげのようだ。

彼が進む方向から、すぐに駅に向かっていることが、分かった。



出掛けるんだ………。


予備校、かな。



ふと、まえに彼が夢を見つけたと話してくれたことを思い出す。


あのときの、彼の顔。


とても、輝いていた。


わたしには、見ることが出来ない未来を、


心待ちにするような。



別人のような姿の将太は、まっすぐまえだけ見て、わたしたちのところから離れていく。


その瞳には、もはや、わたしの姿はうつらないのだろう。



これから先も、ずっと…………。



ヒューは今にも彼に向かって駆け出しそうだった。それを、わたしが止める。


「……ダメ、行ったらダメよ」


低い声で命じたわたしに驚いたようだった。ヒューはわたしの顔を見上げ、真剣な目を向けていた。どうして?と尋ねられているような気がした。


わたしはそれ以上なにも言わず、ヒューから目を逸らし、再び将太のあとを目で追う。彼はずいぶん先まで歩いていた。彼の背中が、小さく見える。





−−−行かないで。



行かないで、行かないで………。



ひとりにしないで。



今、ものすごく寂しいの。



夜が、怖いの。



身体が、辛いの………。



ホントは





キミの傍に、いたいのに−−−−





伝えたい言葉が胸を溢れた。けれど、それを口にすることは、絶対に出来ない気がした。



根本的に、違うんだ。



わたしと将太では、



例え一緒にいても



あとあと苦しむことになる−−−。



それが、はっきり分かっていたから。



わたしは、将太の背中を見つめたまま動けずに、


ただ、泣いた。


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