《MUMEI》

.


俺は電話に出た。



「もしもし?」


携帯に向かって尋ねると、登の明るい声が返ってきた。


『よぉ!!生きてた!?』


呑気な台詞に笑いながら、なんとかな……と呟く。登も笑った。


『今日、学校行ったらお前公欠になってたからさぁ!てっきりサボりかと思って、担任に聞いたら見学会だっていうじゃん??ビックリしたよ!!』


一気にそこまでまくし立てる。
俺は部屋の壁にかかっているカレンダーを見た。

今日は高校の登校日だった。

見学会に出席する予定になった俺は、いち早く担任に連絡し、公欠にしてもらったのだ。

ぼんやりしている俺に、登は『………で??』と尋ねてくる。


『見学会、どーだった??』


ワクワクした口ぶりだった。俺はキラキラと目を輝かせる登の顔を思い浮かべて、笑う。


「楽しかったよ。犬も触れたし」


正直に答えると登は『そーじゃなくて!』と声を大きくする。


『女の子!!動物の専門学校なら、カワイイ子、いっぱいいたろ!?』





…………ああ、そっちのこと。





俺は呆れつつ、よくわかんねー、とだけ答えた。

確かに女の子はいっぱいいたけど、取り立てて仲良くしたいと思わせるようなひとはいなかった。

俺の返事に、登は『つまんねーの』と文句を言う。

素直な登に俺は笑った。


「そーいう不純な気持ちでいるのは、お前だけだろ?」


言ってやると登は『なんだよ、それ!?』と怒りながらも、声は明るかった。


『ま、無事に進路がはっきりしたっつーことで、とりあえずめでたし、かな??』


登の言葉に、俺は、ああ、とはっきり答えた。登は『応援してるよ』と呟いて、照れたように笑った。

すると、登がなにか思い出したように言った。


『そういや、のぞみから連絡あった?』


のぞみの名前にドキッとする。

このまえの登からの電話で、のぞみが俺のことが好きだと知ったから、なんだか意識してしまう。


俺は、いや……と躊躇いがちに答えた。


『なんもないよ』


のぞみから連絡なんてない。

予備校を辞めてから、メールも来なくなっていた。そんなこと、すっかり忘れていたけれど………。


俺は、逆に尋ねた。


「のぞみがどうかしたの?」


平静を装うと、登はなんだか言いづらそうにモゴモゴしていたが、突然さっぱりした声で言った。


『なんでもない!!気にすんな!!』


『それじゃ!』と焦ったように言うと、一方的に電話を切られた。

登の様子が怪しいと思ったが、疲れていた俺は眠気に勝てず、再びベッドに倒れ込んだ。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫