《MUMEI》 . 「…………ナカハラ?」 思わず呟くと、彼女は嬉しそうに顔を輝かせた。 「知ってます??」 無邪気に尋ねてくる女子高生の顔を、ぼんやりと見上げる。 −−−−この子は、 どうして、将太の家を探しているのだろう。 道に、迷った。 つまりは、彼の家を訪ねたことがあまりないということ。 彼女が、将太の家を訪ねる理由は? 自分の家に女の子を呼ぶなんて、 フツーの友達という関係じゃない。 もっと、深い繋がりがあるはずだ。 この子は、一体、だれ………?? 「どうかしましたか………?」 凛とした声に、わたしはハッとする。 目の前にいる女子高生は不思議そうな顔をしていた。 わたしは慌ててほほ笑む。 「なんでもないの」 そう言ってから、 答えた。 「ごめんなさい……よくわからないわ」 嘘を、ついた。 言いたくなかった。 この子を、将太に合わせたくなかった。 その想いが胸に渦巻き、気付いたら口が勝手に動いていた。 彼女は疑うことすらせず、がっかりしたように顔を曇らせて、「そうですかぁ…」と呟き、長い黒髪をかきあげながら携帯を見つめた。 なんだか、悪いことをしたような気になって、わたしは言葉を補う。 「その番地なら、そこの道を進んで右に曲がるとあると思うよ。そんなに遠くないから……」 方角を指差しながら説明してあげると、彼女はパッと表情を明るくさせて、「ありがとうございます!」とはぎれよくお礼を述べた。 「助かりましたぁ」とつづけて言い、わたしのもとから去ろうとした彼女の背中に、 「……ねぇ」 と、呼び止めた。 彼女は満面の笑顔で振り返る。「なんですか?」と明るい声で尋ねた。 輝く表情。 弾む声。 全身で喜びを表現している彼女が、眩しく見えた。 わたしは彼女の顔を見つめて、ひとつ瞬く。 −−−彼とは、どういう関係なの? 気をゆるせば、口に出してしまいそうだった。 けれど、必死にその言葉を心の中で打ち消して、 わたしはほほ笑んだ。 「気をつけてね」 それが、やっとだった。 女子高生は一瞬キョトンとして、それから太陽のような笑顔をわたしに見せた。 「ありがとう、お姉さん!」 そう言い残し、彼女はわたしのところから駆け出した。眩しい日差しのもと、走り去る彼女の後ろ姿は、とても生き生きとしていた。 −−−彼女は、これから、将太と……。 そう考えて、わたしは鬱屈とした。 ふさぎ込んでいるわたしの姿を、ヒューと百日草だけが、遠くで見守っていた。 . 前へ |次へ |
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