《MUMEI》
愛は会社を救う(99)
やがてカクテルが届くと、知子は乾杯も忘れてフルート型のシャンパングラスに口をつけた。急いで来たせいか、喉が渇いているようだった。
私は知子が落ち着くのを待って、もう一度、仁美の様子を訊ねた。
「それで、チーフのご様子は?」
「そうね…。ごめんなさい」
そう言いながら知子は、ナプキンでグラスの縁に付いたルージュを拭った。
もともとは化粧っ気の無い知子だったが、近頃では私と会う時には決まってメイクを施して来るようになった。
「この前、ちょっといろいろあったものだから、精神的に落ち込んでるみたい。だからしばらくは、私がそばにいてあげるつもり」
「いろいろって、何です?」
仁美の変化に由香里が関係していることはわかっていた。
私は、自分が授けた"策"によって、由香里がどのように"任務"を遂行したのかを知りたくて仕方がなかった。

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