《MUMEI》
愛は会社を救う(105)
しかし知子は、我に返ったように、ふいに首を横に振った。
「あ、やめとくわ。こんな話するなんて。私も趣味が悪いわね」
「そこまで言われると、ますます聴いてみたい気がしますがね」
そう誘い水を出された知子は、かなり困惑した表情で口篭った。
しゃべりたい気持ちと、話してはならないというモラルが、心の中で葛藤しているのだろう。
しかし、やがて決心がついたのか、そっと私の耳元に唇を近付けてきた。
「山下さんね…」
アルコールで湿った、熱い吐息が耳にかかる。

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