《MUMEI》 祐樹のこと. 見学会に行った日から、俺はドッグトレーナーのことを調べるため、資料を集めていた。 その日も近くの本屋へ行き、関連の雑誌やら本やらを買い、家でずっと読み耽っていた。 本に夢中になっていると、母さんが部屋までやって来た。 「ちょっとスーパー行って来てくれない?醤油きれちゃったのよ」 面倒だったけど、俺は母さんに、了解、と答えて、家を出た。 外はずいぶん暗くなっていて、夏の終わりを告げるような涼しい風が吹いていた。 スーパーは駅前にある。 だから、公園の傍の道を通った。 やっぱり気になって、公園の方を見てしまう。 無駄なことだと、わかっているのに。 薄暗い公園には、ひとはいなかった。 俺は、考える。 百々子さんに会わなくなって、どのくらい経つのだろう。 数週間のはずなのに、もう何ヶ月も会っていないような気がした。 …………このまま、 ずっと、会えないのかな………。 重くのしかかる寂しさを振り切るように、俺はスーパーへ向かって駆け出した。 買い物を済ませて、家へ帰る途中、 再び公園にたどり着いた。 足を止めるつもりはなかった。 なのに、勝手に身体が動く。 意思に反して、俺は公園の中に向かって行った。 公園には、相変わらず百日草が咲き乱れていた。 薄暗い街灯に照らされたその花は、昼間のものより鮮やかさを失っているように感じた。 ゆっくりと広場に近寄る。 視界に、 ヒューが元気に駆け回る姿と、 それをベンチから眺める百々子さんの姿の、 残像が見えた、気がした。 楽しかったあの日々に、 輝いていたあの毎日に、 もう、戻ることは叶わないのだろうか………。 ぼんやりとしている俺の耳に、 不意に聞こえてきた、声があった。 「ぅわ、ちょ、ヒュー!!引っ張るなよ!!」 …………え? 《ヒュー》? 俺は、声がした方をゆっくり振り返り、 そして、驚いた−−−。 . 前へ |次へ |
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