《MUMEI》
・・・・
 「これが資料だ。ご覧の通り、あの野郎も可哀想なやつだな。入りたての頃は世のため人のため献身的に活動してるが、上にあがっていくと渦に逆らえず、自分を失ってただ上の命令を聞くだけの飼い犬同然。そうするしかなかったと言えばそこまでだが、それでもあんな最期が待ってたんならな」
 資料に目を通し終えたカイルは用済みとなった資料を置いた。
 「可哀想、か。低位の神官止まりならそう言って同情するかもしれないが奴は最上位にある宮廷神官だ。その座に就いてからは奴に意見できる者もそうはいない、だが奴は宮廷神官に就く少し前から不義なる裁きに手を出しはじめているように見える。
 事実、あの男の名は何度か耳にしたこともある、死んで当然と言っていいだろう」
 奥歯を噛みしめ、カイルは湧き上がる怒りを抑える。まだ吹っ切れていないのか、カイルはそう思い、この感情を抱いたことに驚いた。
 「確かにその可能性もある。
 ま、考えても仕方ない。カイル、お前も何か持ってきたんだろ」
 心此処に在らず、そう言った様子をカイルはしている。気づいたエドは彼の心を戻すため促す。
 わずかの当惑のあと、カイルは首を縦に振った。
 「ああ、今朝早くある貴族の当主が寝室で殺されているのが見つかってな、あの男同様、心臓を一突きだった。犯人は仮面の男で間違いない」
 「それで、何かわかったのか」
 金髪の騎士は真剣な眼差しで、友人の話に耳を澄ましている。
 「いや、何の手がかりも残していなかったからな、打つ手がなかった・・・だがお前が持ってきたこの資料で次に繋がるものを手に入れた」
 「・・・・」
 カイルは勿体ぶる風もなく、淡々と語りはじめる。

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