《MUMEI》
愛は会社を救う(121)
あと数日でこの街を去る。
任務を終える私は、ある種の寂しさと解放感を胸に、帰り慣れたマンスリーマンションの前でタクシーを降りた。
「残念だったわね」
音も立てず背後に歩み寄っていたのは、いつもの黒いパンツスーツに身を包んだKだった。
しかし車を降りた瞬間から、私はその気配を感じ取っていた。
「何も残念なことはないさ」
私は背を向けたまま、Kに応えた。
「各世代のキーマンを発掘し、風通しのよい人間関係を再構築した。情報の独占状態も解消した。…完璧だと思うがね」
「そうね。クライアントも概ね満足したみたいだわ。それが誰なのか、あなたは途中で気付いたみたいだったけど」
珍しくKが、私の仕事に対して肯定的な意見を口にする。
「だけど」
Kは、すうっと私の前に回り込むと、あの吸い込まれるような黒い瞳で、私の顔を覗き込んだ。
「やり方は、いただけないわ」

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