《MUMEI》
愛は会社を救う(123)
「ま、インセンティヴが全額振り込まれるように、よろしく頼むよ」
私はKの脇をすり抜け、ホテルのエントランスへと一歩踏み出した。
と…
鼻腔の奥の神経細胞が、偶然舞い込んだあの香りに反応した。
(…アストリンジェント)
驚いた私を嘲笑うかのように、Kの魅力的な口元が、一瞬、緩んだように見えた。
(笑った、のか…?)
目の前にいるKの姿に、高校のブレザーを着て微笑んでいた"沢渡ケイ"の姿が重なった。
だがその時にはもう、その女は私に背を向け、川沿いの歩道を歩き始めているところだった。

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