《MUMEI》 ……まねいじゃ、結構ハードだな。 しかし、仕事は何もかもが新鮮だ。 光の仕事ぶりも見れるし。 光の現場での集中力を見ていると、改めて才能という言葉を思い出す。 役者として、俺が知るずっと前から高遠光は形成されいたのだろう。 カメラが回り始めると、光は完全に一個体の別の人間像が創造される。 神でも無く、母でもなく、高遠光が作る。 光が与える影響は作品を見る側だけでは無く、関わった側もだ。 高遠光なら、出来る……という信頼感かもしれない。 伊武監督とは、光が子役時代に初映画出演を果たした頃から何度も仕事をしている。 伊武監督が指揮を取り、14歳の光が主演した映画は、大きな賞には入らなかったが、高遠光=青臭い不良の学生というイメージを確立したきっかけでもある。 今回、伊武監督は光に対して自らが定義付けた幼さを突き崩すべく話を持ち掛けたらしい。 学生ではなく、父親という形で。 二人は阿吽の呼吸で俳優やスタッフ達を作品の完成へと導かせる……と、スタイリストの方(女性)が言っていた。 俺としては光が皆に愛されてて嬉しい訳だ。 「国雄……浮気だけは止めて。」 俺が誰かと話すと光は気が散ってしまうようでいけない。 「してない、してない……今日ね、お弁当作ってきちゃったんだけど。」 「食べる、ケータリングより美味いから。」 光もすっかり嫌っていた雑穀米が好きになったようだ。 「あ、前髪目にかかってる。」 あまり頭髪剤の付けられていない前髪を目から避ける。 「なんだか高遠さんのマネージャーさん、世話やき女房みたいですね。」 ……言ってくれるなあ。 そして、光がフいたのも見逃さなかった。 「……まねいじゃっぽくないし……。」 「言ってろ、そのうち国雄さんがいないと駄目になっちゃうから。」 宣戦布告というやつだ。 前の人からの引き継ぎの時も、まねいじゃの心得教えられたし。 「強気出た……」 俺の自信への期待と、揺るぎ無い信頼が憎まれ口に含まれている。 「光!ちょっと……」 伊武監督が呼び付ける声が聞こえた。光は切替が早く、電波でも辿るように監督の所へ駆け付ける。 そのぴったり息が合うのがちょっと、羨ましい。 暫く二人は隅で話し込み、更に人目のつかないような場所に移動した。 帰ってくる気配が無いので煙草を吸ってくると嘘をついて、二人を様子見に行ってしまっていた。 随分と親密な距離で、伊武監督の立っているふくらはぎあたりに光は寄り掛かっていて、内心ではどっちが浮気だよ……と罵りたくなった。 監督は常に煙草を離せ無いようなヘビースモーカーである。くわえ煙草に伸びた髭を剃り忘れていて、だらしのない印象だ。清潔にしていればそれなりに渋い紳士なのだ。 若い頃は苦労したらしく、肉体労働で鍛えられた体で、がっちりとした手だ。 その大きな指がくわえていた煙草を光のほんのり赤く色づく唇へと差し出されると、馴れたように受け取られる。 光が煙草を覚えたのはこの男が起因しているに違いなかった。 上手く聞き取れなかったが、二人が暫く、ぽつりぽつりと会話を交わすと大きくシナリオは変化していて、皆、戸惑いを隠せない。 伊武監督と光のワンマンに独裁者とまで陰口を叩かれていた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |