《MUMEI》
自然体で
「帰さないってお前…」

今度はリョウがキョトンとしている。

「女が言うセリフじゃねぇだろ…」
「そっ、そういう意味じゃないわよ!!」

恥ずかしさで更に顔を赤くして怒る加奈子が可笑しくて、リョウは吹き出した。

「プッ…アッハッハッハ!!んなムキになんなよ〜、余計怪しいぞ?」
「な!?わ‥私にはねぇ、シュウちゃんっていうカッコイイ彼氏がいるんだから!」


我を忘れて、つい関係ない事まで口走ってしまった。
「彼氏いるんだ?」
「いちゃ悪い?」

リョウが意外だという顔をしたので、加奈子は冷たい目を向ける。

「や、悪かないけどさ」
「じゃあ何よ?」
「俺も一応男なんだし、誤解されたらマズイだろ?」
「あぁ‥」

加奈子は暫く考え込んだ。

確かに一理あるよね…
でも放って置けないし…


「俺帰るわ。じゃぁな。」

え…
あ〜!やっぱ放って置けないっ!!


「今夜だけ!!」
「今夜だけって…」

また変な言い方をする加奈子。
けれど、本人は気付いてないようだ。
その勢いのまま話しを進めた。

「今夜だけ泊まって!」
「いや、だからさ…」
「友達に遠慮なんかするもんじゃないよ!」
「俺、一応男…」

「関係ない!私心配なの!もうこれ以上一人ぼっちにならないで…傷つかないで!」

リョウの腕を掴んだままの手に、更に力が入る。
絶対に行かせないという意識がまざまざと伝わった。


「彼氏には…言うなよ。」
言った瞬間、リョウも自分が変な言い回しをしているのに気付き、慌てて訂正する。

「あ、いやっ‥そういう意味じゃねぇぞっ!!」
「怪しい〜。」
「お‥お前なぁ…っ!」



自然体の会話‥


リョウはいつの間にか、加奈子に心を許していた。


自分の中に潜む悪魔を忘れさせてくれるこの女の子に‥


自分を認めてくれた唯一の人間に…


ずっと満たされなかったモノが、満たされていく気がしていた。

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