《MUMEI》
・・・・
 「十年前のスウェールの滝で執り行われた儀式、民衆は『乙女の嘆き(スウェール・セレム)』とも呼んでいる、あれに宮廷神官と当時元老院に入っていた貴族が関わっていたようだ――お前も憶えているだろう、オレたちもいい歳だったからな」
 いい歳と言っても十代を迎えて間もないころのことだ、記憶力の良い彼らだからこそ成り立つ会話だった。十年前の記憶を掘り起こし、エドは遠い目をする。
 今とさほど変わらない情景に、兵士に腕を掴まれ強引に連れて行かれる十代、二十代の乙女たちの姿が浮かぶ。まだ騎士になっていなかった幼少のエドはただそれを眺める事しか出来ないでいた。
 「王都中から集められた何百と言う乙女たちが滝壷に突き落とされたあの儀式だろう。忘れるわけない、あの時の叫び声は今でも鮮明に刻みこまれているからな。
 だが、あれは流行病を食い止めるための措置だと公表されたはず・・・・・まさか政府が捏造した?」
 「確証はないが、どこか得心がいかないのは確かだ。しかしあの儀式が今回の事件解決の糸口に繋がるかも知れないことは確かなこと。
 そしてオレたちにはこれしか手がないのが実情だ、癪だがな」
 「せめてもの救いは、次の目的がこの資料に記されてるってことだけか」
 資料には宮廷神官ハイムと、今朝早くに遺体が発見されたもと元老院の貴族の名以外に二つの名が書き記されていた。
 「あと二人、これに賭けるしかないか。一人は現国王ユリウス、そして大貴族メーリング家の先代当主ツヴィ」

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