《MUMEI》
接触のとき
.


息をひそめて、音を立てないように、忍び込む。


天草を驚かせてやろうと思ったのだ。


ゆっくりとカウンターに近く。天草は、俺の存在に気づいていないようで、いまだ窓の方へ顔を向けている。


カウンターの裏に回り込み、彼女の背後に立って、


俺は、


声をかけた。





「こんにちは」





天草は俺の声にビクリと大きく身体を揺らして、思い切り振り返った。

目を大きく見開き、俺の顔をまじまじと見る。





…………お決まりの反応。


つまらん。


期待してたのに。


何てったって、『世界が違う』らしいからね。





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