《MUMEI》
いた
羽田は重い気持ちのまま教室へ戻った。

騒ぎのために、この時間は自習になっている。
教師が誰もいないので、生徒たちは好き勝手に騒いでいるようだ。

羽田はわざと音を立てて扉を開いてみた。
一瞬、教室が静まり返る。
生徒たちの視線が一斉に羽田に集まった。
いつもと違う反応に、少し戸惑う。

「あ、えっと……あれ?」

羽田は教室に二つの空席を見つけた。
一つは保健室にいる男子生徒。
そして、もう一つはその前の席。

凜の席だった。

「津山さんは?」

しかし、羽田の質問に答える者は誰もいない。

「どこ行ったか知ってる人は?」

「どっか行きました」

生徒の一人が答えた。

「……そう」

どっかって、どこ?

鞄はある。
帰ったわけじゃなさそうだ。
あとで探してみよう。
羽田は男子生徒の鞄を持って、教室を出た。

羽田がいなくなると、再び教室に生徒たちの騒がしさが戻ったようだった。
あまり、いい気分がしない。


保健室に鞄を持って行き、問題の生徒を帰宅させると、羽田は凜を探し始めた。

一体どこへ行ったのか。

この学校には屋上がない。
校庭にいるなら、すぐにわかるはず。

体育館は今、他の学年が授業に使っている。

特別教室にはすべて鍵がかかっているはずだ。

ならば、残るは……

「校舎の裏?」

羽田は試しに、体育館の裏を見てみた。
いない。

教室がある校舎の裏には……いない。

特別教室が集まった校舎の裏……いた。

凜は放置された使われなくなった椅子に座って、そこからの景色を眺めているようだった。
その横顔は穏やかで、何か面白いものを見ているかのように、少し微笑んでいる。

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