《MUMEI》 . 「……ちょっと見せて」 俺は天草の腕の中から、強引に本を奪い取り、その一節を読んだ。 心がへ するものにもが 片恋は くるしきものと 人にしらせむ −−−あの人の心を取り替えられたらいいのに。もし出来るなら、片想いがどんなに苦しいか、あの人に教えてあげられるのに。 当たり前だが、古語で書かれているので、歌は読みづらいが、歌の横に現代語訳がついていたので、なんとなく意味はわかった。 俺は顔をあげ、天草を見る。 天草は真っ赤になったまま俯いて、俺の方を見ようとしない。 俺は彼女に尋ねた。 「これ、片想いの歌だよね?」 相手のことが好きで好きで苦しくて、でも気づいてもらえなくて、だから、この気持ちが相手と入れ替わるなら、どれだけ自分が相手のことを想っているか、わかってもらえるのに………。 そういう、歌だ。 そして、 その心情にリンクするひとを、俺は、ひとりしか知らない………。 . 前へ |次へ |
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