《MUMEI》
お願いごと
.


俺は本をカウンターに置きながら、聞いた。


「まるで、天草と中村みたいだね」


俺の台詞に、天草は顔をあげた。恥ずかしそうな表情だった。

俺と目が合うと、彼女はフイと逸らし、顔を再び俯かせて小さな声で、言う。


「………恋の歌を読んでると、共感出来ることが多くて、だからつい、いつも読んじゃう………」


黙り込んだ天草を見つめながら、俺はふぅん……と唸った。





……………共感出来る、ねぇ。



『コキンワカ』の恋の歌に、自分と中村を重ねて見ているのだ。





なんとなく、面白くなかった。


俺は開きっぱなしだった『コキンワカ』を、パタンと閉じて、天草に顔を近づけた。


「………お願いがあるんだけど」


突然、話を変えた俺に、天草はゆっくり顔をあげた。


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