《MUMEI》

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天草はもうあとに引けないようで、渋々貸出カードをカウンターの引き出しから取り出した。

ボールペンとカードを俺の方に差し出しながら、「……これに名前と生徒番号を記入してください」と呟く。

俺は、了解☆と呑気に答え、ボールペンでサラサラと必要事項を記入する。



名前を書いている途中、


俺は顔をあげないまま、天草に声をかけた。


「今日、中村に挨拶できた?」


俺の唐突な質問に、天草は戸惑いつつも、


小さな声で答えた。


「できませんでした……」


その返事を聞き、なぜかホッとした。


それがなぜなのかは、考えないようにした。


俺はペンを動かしながら、言う。


「………まぁ、これからだよ、これから。明日、頑張れ」


天草は消え入りそうな声で、「ハイ…」と答えた。


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