《MUMEI》
頭痛
朝、加奈子が目を覚さますと、リビングから声が聞こえてきた。
まだ眠た気な目を擦りながらそこへ行くと、リョウがテレビを見ていた。
「おはよぉ〜‥。」
しかし、リョウからの返事はない。
よほどテレビに集中しているのだろうか。
何の番組を見ているのかと、加奈子もリョウの隣へ行きテレビを見てみた。
ニュースだった。
しかし朝のあの、のんびりとした空気ではなく、何やら慌ただしい。
画面右上に、事件内容のテロップが出ていた。
“奇怪殺人事件第一発見者女性、飛び降り自殺!!”
今朝発見されたらしく、現場からの生中継されていた。
「俺‥この人知ってる…」
写し出された生存前の写真を指差しながから、リョウが言った。
「知ってるって?…何か思いだしたの!?」
リョウは記憶喪失なのだ。
少しでも思い出す事があれば、この手について‥この男の正体について何か手掛かりが掴めるかもしれない。
加奈子はそう思いながら、期待の目でリョウを見た。
しかしその期待とは裏腹に、リョウは首を横に振った。
「そっか…。」
加奈子は残念そうに溜め息混じりに言う。
「まぁ‥焦る事ないよ!その内徐々に…」
加奈子が励まそうと、リョウの肩に手を差し延べた時だった。
え…?
リョウがその手を擦り抜けたかと思うと、床に身体を丸める様に倒れ込んだのだ。
「どどっどうしたの!?」
頭を抱えて急に苦しみ出すリョウに焦る加奈子。
「あ…頭が‥っ!ハッ‥ク‥」
「頭、痛いのっ!?」
「割れそ‥ハァッ‥ハァッ…痛ぇ‥痛ぇよ…っ!!」
尋常じゃない苦しみ方に、どうしたらいいか全くわからずに、ただ傍に居る事しか出来ない加奈子。
私は何て無力だろう‥
かなりの激痛なのか、リョウは汗をビッショリかいている。
助けを求められても何もできずに、ただその汗を拭う事しか出来ない自分に、加奈子は泣いていた。
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