《MUMEI》
なんとかなる
「ユウゴ!」
 呼ばれたユウゴがユキナを見ると、彼女は勝ったとばかりにボストンバッグを重たそうに持ち上げていた。
「よし、よくやった。あとは任せろ!それ、放すなよ」
ユキナは大きく頷くと、ユウゴから離れた位置に移動した。

「……やるじゃねえか。お前の彼女」
「まあな。彼女じゃないけどな」
「ああ、そうだったな。それで?あとは任せろ?馬鹿か、お前」
鼻で笑いながら由井は言った。
「俺に勝てるわけない。しかも、素手で。俺が喧嘩強いの知ってるだろ?」

たしかに、由井は強い。
一度だけだが、彼の喧嘩の現場を目撃したことがある。
 由井は昔、空手を習っていたらしく、あっという間に相手を倒したのを覚えている。

「たしかに、な。いつものお前が相手なら、勝てないだろうけど……今のお前が相手なら、なんとかなる」
「それは、どうかな?怪我をしてるという意味なら、お前も一緒だけど」
「いや。今のお前は……正気じゃない」
 ユウゴは言い終わると同時に、腰を落として由井に蹴りを繰り出した。
しかし、由井はそれを身を引いてかわすと瞬時に拳を突き出した。

思わずユウゴは彼のパンチを左腕で受けてしまった。

恐ろしいまでの激痛がユウゴを襲う。
「……ってぇ!」
ユウゴは一旦、由井と距離を置き、痛みに耐えた。
由井の顔には笑みが浮かんでいる。

「ほら、やっぱり俺には勝てない」

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