《MUMEI》 「──いよっ、とぉ♪」 こーちゃんは、軽々と私を岩場に引っ張り上げた。 「ちょっと前まではおんぶして登ってたよな──」 「『ちょっと』っていうか、小学生の頃だよ?」 「ん、そーだっけか」 キョトンとして、こーちゃんが空を見上げる。 「何か、あっという間なんだよな──。つい昨日がお前と初めて合った日みたいな気がしてさ」 「そうなの‥?」 「その時にしてみりゃ長いんだけどさ──過ぎてみると一瞬で──。でも、こーやってフィルムに残しとけば、忘れたりしないだろ?」 「うん──」 「安心すんだよな、何か──。あん時、確かに俺はここにいたんだ、ってさ」 穏やかな顔をしたこーちゃんの瞳には、キラキラした海が映っていた。 前へ |次へ |
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