《MUMEI》
・・・・
 「肉親を気にしたりはしなかったのか」
 「そりゃな、気にはしたさ。だけどだからってどうなるもんでもないしな。
 前向きに考えりゃいい、家族なんてのは血で決まるものじゃない、心が通えば家族になれるんだ。俺にとってはお前も家族なんだぞ」
 「ふっ、随分と安っぽいんだな。
 だが、それが正常なんだろう。オレには到底真似できないことだがな」
 悟った顔をするカイルを窺い、エドはそうなことないだろ、とカイルの言葉を遮った。
 「お前だってまだ二十一、これからたくさんの出会いがある。そのなかで、変わればいいんだ」
 「簡単に言ってくれるじゃないか」
出来れば苦労しない、自虐の笑みをかすかに湛えてカイルはそう続けた。
 歩き続けるうち会話はなくなっていく。緊張や恐怖から来たものではなく、いわば静かに開戦の狼煙を待つ武将のよう。心を落ち着かせ万全の状態を作り出している。
 共に歩いている二人だが、胸中に抱えているものは違っていた。

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