《MUMEI》

賑やかなメロディとあちこちに瞬く光の粒、目を閉じると残光が動く。
寒空の中、修平さんと七生がやってきた。

「こんばんは。」

首元に二人とも、温かそうなストールをかけていた。修平さんのスーツ以外の姿は新鮮だ。



「こんばんは修平さん。」

鮎子さんは優雅に会釈した。
俺と鮎子さんは一緒にやってきた。
鮎子さんは、黒いワンピースにボアを羽織って、いつもよりシックな雰囲気である。

改めて、気品のある女性だ。


「瞳子ちゃん、今日はちょっと雰囲気違うね。大人っぽい。」

修平さんは直ぐに気付いたようだ。


「うん、似合ってる。」

七生にしても全然違和感無く褒める……俺は気の利いた言葉一つ出なかった。
そして、七生の瞳さんへの優しい言葉はなんだか苦しい。


「二郎君なんか、薄着じゃない?」


「はい、思ったより寒いです。」

昼が晴れたからといっても、秋の夜は暖かいとは限らない。


「じゃあ、私の上着を貸してあげるよ。厚着してきてしまったんだ。」

修平さんはさりげなく上着を掛けてくれた。
肩幅や袖が余ってしまう。


「有難うございます。」

上着からは仄かに、大人の香りがする。

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