《MUMEI》
高山頼視点
どうやって帰ってきたか、よく覚えていない。


とりあえず、話が終わったと同時には、席を立った。


(あぁ、厳か)


ぼんやりと、厳がタクシーを呼んで、俺を押し込んだ事


高山本家に着いてから、引きずるように、俺をタクシーから降ろすと、部屋に押し込み、『おやすみ』とだけ言って、自分の部屋に行った事を思い出した。


「しっかりしろ、俺…」


祐也に辛い過去があるのは覚悟していた。


何度も、確認されて、エイミーにも





「エイミー…」


愛しい、恋人。


愛しい気持ちは変わらない。


でも


「祐也…」


エイミーの存在は


俺の幸せは


祐也の母親の不幸の上に、成り立っている。


それは、紛れもない、事実。


「なのに、何であんな冷静でいられるんだよ…っ」


今日最後に見た祐也の顔は、誰よりも落ち着いていた。


(きっと、あいつは明日も普通に接してくる)


そんな予感はした。


(なら、俺は…)


『明日の劇、頑張ろうね』


そう、笑顔で帰ったエイミーの為にも、


(…頑張らなくちゃ、な)

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