《MUMEI》
津田志貴視点
「じゃあ、また明日」

「…うん」


いつもなら、一緒に帰ると言っている状況なのに


私は、祐也の背中を小さくなるまで見送った。


「志貴ちゃんも車乗ってく?」

「いい。歩いて帰る。バカップルの邪魔したくないし」


希の提案を断り、私は歩き始めた。


(いつもならここで柊の文句が入るんだけどな)


どうやら柊も余裕が無いらしい。


「私も、無いな」


ゆっくり歩きながら呟く私は


かなり、私らしくない。


でも、今日はいつもの私にはなれそうもなかった。


(ゆっくりお風呂入って、寝よう)


手に持っている弁当は、両親の夜食にしよう。


「うん! そうしよう!」


自分に言い聞かせるように叫んだ私を、周りがジロジロ見ていたが


祐也の過去と、自分の気持ちの整理に忙しい私は





(でも、やっぱり恥ずかしい)


そこからは早足で


途中からダッシュで帰宅し、両親を驚かせた。


(今日だけ、今日だけ。今夜だけ)


明日からは、また私はいつもの私になる。


祐也にも、絡む。


何度も自分に言い聞かせながら、私は目を閉じた。

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