《MUMEI》
高山柊視点
大好きな希と二人きりになったのに、俺は一言も喋れなかった。


俺の頭の中は、忍さんから聞いた祐也の話でいっぱいだった。


俺は、今まで自分は注目されてばかりでかなり特殊な環境にいたと思っていた。


(こういうの、井の中の蛙っていうのかな)


俺はノーマルで、両親もいて、普通に義務教育を受けて、高校に通っているのに。


あまりにも、自分と違い過ぎる環境で育ってきた祐也に


俺は、言葉が出てこなかった。


「俺、これから祐也とどう接していけばいいのかな…」

「友達…やめるの?」

「え?」


(俺、口に出てた?)


俺は慌てて希を見た。


希は、運転しているから、前を向いたまま、また俺に質問した。


「自分とあまりにも違い過ぎるから、…友達やめるの?」

「そ、れは…」


この時、俺は


『やめない』


そう、きっぱり言えない自分に


情けない自分に


…愕然とした。


それから、家に着くまで、俺と希はずっと無言だった。


「明日、劇見に行くわよね?」

「…」

「とりあえず、いつもの時間に来るから。おやすみなさい」

「おやすみ」


…皆が言うように、やっぱり俺は、…ヘタレだ。

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