《MUMEI》 . 大介に殴られながら俺は、天草から目を逸らせなかった。 すると、俺の視線に気づいたのか、 不意に、天草が、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。 目が、合う。 俺はなぜか、顔が強張ってしまう。 彼女は俺の姿を見つけて、パッと顔を輝かせた。 『中村と話が出来たよ』と、 そう、言いたげな表情だった。 俺は、瞬いた。 胸が、焼けるように、ムカつく。 −−−限界、だった。 これ以上、もう、二人の姿を見ていられなかった。 俺は、天草から顔を背けた。 そのまま踵を返して、二人から離れる。 俺の態度に戸惑った大介が、「おい、シンヤ〜!!」と呼びかけながら追いかけてきた。 それでも、振り返らなかった。 背中に、全身に、 天草の視線を、 痛いほど、感じていたから………。 . 前へ |次へ |
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