《MUMEI》
・・・・
 もう一度深々と頭を下げた。
 「こちらで、モーリス様とツヴィ様がお待ちでございます」
 言って、扉を開ける。
 扉の向こうには、扉に見合った大きさの部屋があった。と言っても、二人が軍で与えられている部屋より大きく、この部屋にも例の如く絵画が飾られていた。二つある窓の外には屋敷裏の小庭園が広がっている。小さな池にハスの葉が浮かび、慎ましく白い花を咲かせていた。
 エドにカイル、二人が部屋に入るなり、扉は閉じられる。
 二人の前には机を前に座っている六十代の男。由緒正しき金色の髪色をしていたのだろうが、いまは見る影もなく褪せ、白くなり果てていた。それでも、衰えを感じさせない粋な空気を漂わせている。退いてなお恐れられる、大貴族メーリング家先代当主ツヴィその人だ。
 側近のようにツヴィの横で立っている壮年の男が爽やかに笑う。
 「よく来てくれた、ゴルドフ騎士団の騎士よ。私が現当主モーリス。事情は聞かせてもらった、父上が必要だそうだね」
 現当主モーリスの影はどうしても薄くなりがちだった。それは先代が濃すぎることもあったのだが、この人自体が欲に走らず、謙虚に暮らしていたからである。会議の場でも、言葉を控え、名指しされた場合だけ意見を述べる。
 地位や名声に興味がないのだ。
 「それで、話を聞かせてくれないか。私たちに出来る事ならどんなことでも協力しよう」
 大貴族の当主とは思えず、まったく威張った様子がない。

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