《MUMEI》
・・・・
 口を噤んだまま、二人の来訪者を見定めているだけだった先代当主ツヴィがモーリスを制し、堅い口を開いた。
 「そこの目つきの悪いの、名を名乗ってみい」
 「――カイル=ハイリッヒだ」
 フルネームを名乗り、カイルは前へと出た。
 部屋には四人だけ、己の身を案じて護衛を何人か付けてくると思っていたが・・・それとも見栄を張って格好をつけているのか。
 カイルの考えなど知るはずもなく、ツヴィはカイルの姓を聞きここぞとばかりにでかい声で笑い出した。
 「やはりな、没落貴族ハイリッヒ最後の男子だったか。いやこれは愉快、愉快」
 いやらしい笑みを作り、ツヴィは蔑みの言葉をかけた。
 「まさか悲運を背負いし家の小僧がここまで立ち直ろうとは」
 友人を侮辱され、熱い怒りが湧き上がりエドは歯を食いしばった。口答えが喉まで出かかるが、ここでそんなへまをするわけにはいかない。言葉を必死に呑み込みカイルを見た。
 横顔はぴくりとも動かず、心の乱れを微塵も窺わせない。その漆黒の瞳はツヴィだけを見据えていた。

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