《MUMEI》 . お互いの視線が絡み合う、 そのタイミングよりも早く、 俺は天草の腕を引き寄せ、 軽く、口づけた。 優しい温もりを感じたのは、一瞬のことだった。 強引にキスした、次の瞬間には、 天草が俺の顔に、平手打ちをかましたから。 床に尻餅をつき、ヒリヒリと痛む自分の頬に、手を添える。 そして、目を見張った。 −−−天草は、泣いていた。 俺から顔を逸らし、睨みつけるような激しい目つきで、床に散らばったペンを見つめていた。 大粒の涙は、彼女の白い肌の上を滑らかにすべり落ちて、とどまることはなかった。 かける言葉が、出てこなかった。 俺はユラユラと立ち上がると、涙する天草をそこに残したまま、図書室から立ち去った。 . 前へ |次へ |
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