《MUMEI》 「なんだよ?」 「今はここから離れた方がいい」 そう言う織田の視線は周りを見ていた。 ユウゴはハッと気付いて同じように辺りを見渡す。 声も聞こえなかったので今まで気がつかなかったが、通行人が怯えた表情でこちらを見ながら立ち尽くしている。 おそらく目の前で起こった出来事が理解できていないのだろう。 そう思った瞬間、一人の女が甲高い悲鳴を上げ始めた。 それを合図にしたかのように、茫然としていた人々が口々に悲鳴を上げる。 そんなに人数は多くないものの、声は反響して一際大きく聞こえる。 これではすぐに人が集まってしまうだろう。 ユウゴは表情をゆがめてケンイチを見ると「続きは後だ! 逃げるぞ」と怒鳴ってから走り出した。 視界の端にケンイチの笑みが見えたが、今は気にしていられない。 ユウゴと織田が並んで走り、一歩遅れてケンイチが続く。 このまま行くと再び大通りに出てしまう。 人込みに紛れて逃げることができるだろうか。 そう考えているうちに、三人は大通りに出てしまった。 行き交う人の群れに飛び込む。 そして流れに合わせるように歩き出した。 軽く息を弾ませながらユウゴは辺りを見回す。 誰もユウゴたちを見ていない。 ホッとしながら息を整え、今度は耳を澄ます。 通りに並ぶ店舗から様々な音楽が流れ、また人の話し声や車の音がうるさく響く。 そんな雑音の中で、遠くに聞き慣れたサイレンが聞こえてきた。 前へ |次へ |
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