《MUMEI》

「誰か通報したか」
織田が低い声で言う。
それに頷きながらユウゴは後ろを振り返った。
ケンイチがポケットに手を突っ込んで無表情に歩いている。
さっきまでの笑みはもう浮かんでいない。
「おまえ、さっきなんであんな無茶なことしたんだよ?」
ケンイチは目をユウゴに向け、不思議そうにしている。
「俺を殺すつもりだったよな?」
ユウゴが続けると理解したのか目をわずかに大きく開き「んなわけないじゃん」と笑った。
「ちゃんと助けてやっただろ? ただ弾が外れても別にいいやって思ってただけだ」
「だけって……。つまり俺がそれで死んでもかまわないと」
ユウゴが言うとケンイチは笑みを浮かべたまま頷いた。
「だって、別に俺はおまえを守る義理もないし。それに、そこで死んだらそれまでの奴ってことだろ?」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
「じゃ、いいじゃん。ピンチこそ楽しめ、てのが俺のポリシーだ」
「それ、ピンチの前に『他人の』てのが入ってるだろ」
ユウゴが言うと、ケンイチは無邪気に笑った。
ユウゴはため息をつきながら「で、どうするよ」と織田を見た。
織田は「腕は大丈夫なのか」ちらりとユウゴに目をやる。
「ああ、そんな深くないし。もう血も止まってる」
自分の斬られた腕を押さえて確かめながらユウゴは言った。
ピリピリとした痛みを感じるが、それだけだった。

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