《MUMEI》
君を守る
「惇は」



「…、気丈に頑張ってる」

「……そうか」


俺は椅子に座った。




ファミレスの、俺達が座る席の窓から病院が見える。


そして何台かの中継車が止まっているのも見える。





過労で入院中の、若手俳優、加藤惇の兄の運転する車が、無理な追い越しをかけてきたトラックに接触され、




長男は死亡。


次男は意識不明の重体。



加藤惇は無理を押して病院を外泊し、兄についている。


そして今日は長男の通夜。




マスコミはその様な報道で派手に騒ぎ立て、惇達一家に付き纏っていた。



一度だけ、無言のまま惇が深々とマスコミの前で頭を下げ病院の中に入って行った。


その映像が何度もしつこくワイドショーで流され、一様に周りは同情の言葉を投げかけていた。




裕斗らがこちらの病院に着いた後すぐに裕斗から電話を貰って、そしていきさつを聞いて…、だけど、どうしても仕事が抜けだせなくてそれから一日以上経過してから俺はここに来た。


裕斗も結局は惇の傍に居る事も出来ず、というか居る雰囲気ではなかったというのが正解なのか。

それでも惇と何度かメールのやり取りをして、その内容からは惇は今のところしっかりしているみたいだという事と


惇の主治医から降された外泊の条件通り平山さんが惇の傍にいるらしいという事だ。




結局裕斗は近くのビジネスホテルで一夜を過ごしたらしい。


そして今日仁さんの通夜に参列後一端電車で帰る。




…裕斗も仕事がある。


「何か食べる?」

「あ、…、そうだな」


どんな事があろうとも腹が減る年齢の俺達。

裕斗も俺も一番でかいハンバーグセットを選んだ。







「やっぱメール見てねーのかな」


「ま、見てないとしても通夜で会えるし…、俺隆志のフォーマル着れるかな…」

「その格好よりはマシだろ、ウエストはベルトでごまかせ」

「そうっすね」



早々に来たハンバーグを豪快に頬張りながら俺達は話す。




裕斗が惇に俺とここに居る事をメールで伝えてくれてある。




「ピアスは外せよ、靴は…、その色なら無理矢理OKか」

俺は裕斗の足元を見ながら言う。

たまたま黒に近い革のシューズを履いていた。


「は〜…、なんかさー、本当は悲しい筈な事なのにこーいったしきたりっつーの?何だかなあ」

裕斗は御霊前の袋に折原裕斗と、びっくりする位綺麗な字で筆ペンで仕上げた。
そういえば本名、親の再婚で折原だったんだっけと久しぶりに思いだした。

「兄貴が意識戻らねーのに通夜とか葬式とか…、惇可哀相…」

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫