《MUMEI》
チャンス
「そいつは、どうかな」
 ユウゴは手近にあった段ボールを投げ付けると同時に、由井に足払いをかけた。
段ボールでの目眩まし効果か、由井はあっさり尻餅をついた。
 ユウゴはチャンスとばかりに由井が怪我をしているはずの腹部を思いきり蹴り上げる。

由井の悲鳴が響いた。

「これで、おあいこ」
ユウゴが言うと、由井は苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。

その顔は怒りのためか、真っ赤になっている。
そして、雄叫びをあげながら突進してきた。

よし、いいぞ

 由井の攻撃をなんとか避けながら、ユウゴはほくそ笑んだ。
由井は頭に血が昇ると、注意力が散漫になる。
ユウゴがつねに冷静でいれば、勝つ見込みがあるのだ。
しかし、さすがに由井の攻撃をずっと避け続けることはできない。

早めになんとかしなければ。

 そんな考えを知る由もない由井は、ユウゴの浮かべた笑みを見て、さらに頭に血が昇ったらしい。
「このっ!」
彼らしくない、大振りな蹴りが繰り出される。

その瞬間を見逃すわけにはいかない。

蹴りをかわし、ユウゴは彼の腹部へと拳を突いた。

「……っ!」
由井がバランスを崩す。
 その顔に、渾身の力を込めてもう一発パンチをかますと、由井はドシャっと床に倒れた。
さらに、ユウゴは彼の背中を蹴った。
「……うっ!」
 由井は口から胃液を吐き出し、呻きながら、まるで赤ちゃんのように小さく丸まった。

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