《MUMEI》 豹変「……柊」 俺がポツリと名前を呼ぶと、柊は心配そうな顔をして覗き込みながら「大丈夫?顔色が良くないわよ?」と聞いてきた。 …大丈夫かだって?ふざけんな。お前は二人の死に関係しているくせに!!よく平気で話しかけてこれるよな 柊に対する怒りが渦巻く中、俺は感情を押し殺して「…あぁ、大丈夫」とだけ言った。しかし、柊はそれだけでは引き下がらない。 「早退したら?」 「いや、本当に大丈夫だから」 いいから早くどっかに行ってくれ。一人にしてほしいんだ。お前と話なんかしたくないんだよ! 「無理はしちゃ駄目よ」 「無理なんてしてねぇから」 「でも…」 何を言っても俺から離れようとしない柊に対して、俺の怒りはもう隠しきれなくなった。 「…なぁ、柊」 「何?」 「お前、何か知ってんだろ?」 「え?何が?」 「智と椋の死についてだよ!」 「二人の死について?何も知らないけど?」 きょとんとした顔をしてとぼける柊に対し、さらに怒りが湧きあがってくる。 「嘘ついてんじゃねぇぞ」 「嘘なんてついてないわ。本当に何も知らないの」 「じゃあ、どうしてお前は二人の死に顔のこととか椋の手に握られていた髪のことを知ってるんだよ!?」 「………」 「それは知ってるって言わねぇのかよ!!」 「………」 「おい!自分の都合が悪くなったら今度は黙るのか?いい加減にしろよ!!」 白を切り続けるのかと思えば、今度はいくら聞いても黙るだけの柊に怒りは爆発し、俺は彼女を怒鳴り付けていた。 すると、柊は俺を無表情に見つめながらさっきまでとは違う、低くて冷たい声で俺を呼んだ。そんな柊に僅かな恐怖を感じ、俺は思わず後ずさった。 「な、何だよ?」 「前にも言ったわよねぇ?知っても意味のないことがあるって。忘れちゃった?」 「…そんなの、今は関係ないだろ!意味があるとかないとか、そんなのどうだっていいんだ!!俺が知りたいだけなんだよ!」 恐怖よりもまだ怒りの方が勝っていたため、俺は感情に任せて柊を怒鳴りつけた。しかし、それも長くは続かなかった。柊の口調が、突然変わったのである。 「……ったく、うるさいなぁ」 「…えっ?」 「うるさいって言ってんだよ!!月代君は知る必要がないんだよ?そう言ってんのが分かんない!?」 「…柊…………?」 「嫌でももうすぐ分かるんだからさぁ!!今は知らなくたっていいんだよ!」 突然の変貌ぶりに、俺は驚きと恐怖に支配された。もう、彼女に対する怒りなど取り払われてしまっていた。 「…何、言ってんだよ?」 「貴方だって、そのうち跡を追うんだろうって話だよ!」 「……何で、そう思うんだよ?」 「はぁ?当たり前でしょ?貴方の親友が二人とも死んじゃったんだからさ!そういう予想するでしょ?皆も言ってることじゃない!」 柊は笑顔で、凍りつくような笑顔でそんなことを言った。 なんなんだ?この状況は。今目の前にいるのは、本当に柊なのか? 「…お前、おかしいぞ?狂ってる……」 「どこが?狂ってないよ?私は正気。月代君は何を言ってるのかしらねぇ?」 完璧に狂ってる。 そう感じた俺は、言い表せない程の恐怖からその場から走って逃げた。 嫌でももうすぐ分かる? あいつは何言ってんだよ? 柊は、何かおかしいとかいうレベルじゃない。 二人が死んだって話を してんのに、笑ってたんだぞ? 柊は…………狂ってる 俺の頭にはもうそれしかなくて、ただひたすら柊から遠ざかるために走った。 前へ |次へ |
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