《MUMEI》
3
 「何なんだよ!この格好は!?」
翌日、サキの具合を心配してか早々に出勤してきたコウ
事務所へと入るなり、コウはサキに捕まってしまっていた
無理やりに服を脱がされ、そして別の何かを着せられて
それだけでも文句があって当然なのだが
ソレに輪をかけて、着せられたそれが所謂メイド服なるものであれば、コウの文句も当然のことだろう
「……何って、メイドの格好に決まってんだろ」
他に何に見える、とさも当然の様に言い切るサキへ
納得など出来る訳もないコウが、スカートの裾を靡かせながら段々と迫り寄ってくる
「そうじゃねぇだろ!俺が聞きてぇのは何の為にこんな格好すんのかって事だよ!!」
喚きながら事の説明を求めるコウへ
サキはいともあっさりと潜入調査だと告げてやった
「潜入調査?何所に?」
「ラングのとこに決まってんだろ。まだ少し気になる事があってな」
「それで?何で俺がこんな格好させられる訳だよ?」
「潜り込むんなら、やっぱメイドの格好が一番自然だろ?」
理屈の通ってない言い草に、コウはため息ばかりをついてしまう
しかもサキの表情から、遊んでいるのがはっきりとわかってしまい
それ故に性質が悪かった
「……所長。コウ君で遊ぶのも程々になさって下さい。警察の方から、家宅調査の許可は貰っているでしょう」
二人のやり取りを見見兼ねたライラがその事を指摘してやれば
サキは手を止めライラへと向いて直る
「遠慮なく真正面から突っ込んでいただいても構いませんから」
「……珍しいな。お前からそんな指示が出るとは」
「何となくです」
僅かに顔を朱に染め俯いたライラの頭を、やはり子供にしてやる様にサキは撫でて
その珍しく穏やかなやり取りに驚くコウだ
「行くぞ。コウ」
いきなり襟首を掴まれ
今から行くのかをつい問うてしまう
「後々に伸ばすと大儀になるだろうが。だから、今から出向く」
何ともやる気のない言の葉を吐きながらコウへと服を投げつける
だが、これでもサキにしては積極的な方で
その今を逃す手はないとばかりに、コウの背をライラが押しやった
「行ってらっしゃい。お気を付けて」
ライラの見送りを背に戴き、二人はその場を後にしたのだった……

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