《MUMEI》

筆ペンを握り俺も名前を書くが、裕斗の字と比べると酷くお粗末な仕上がりで。

「…はあ、…、でもな、仁さんだって惇にとっては大切な兄貴なんだ。例えどんな状況だろうが身内として通夜や葬儀を果たすのは最低限の義理で義務だ」

「まあそうなんだけどさ…」

そう言いながら裕斗は俺がテーブルに置いた筆ペンを掴み、残っていた袋に……

俺の名前を書いた。


「隆志字ヤバすぎだぞ」

「…煩い…、いーんだよ、ほっといてくれ」




俺は勿論、裕斗が書いてくれた袋にお札を入れた。








惇は結局ファミレスには現れず、メールも俺にも裕斗にもよこさなかった。


俺は裕斗が泊まったビジネスホテルにチェックインし、二人でそこでフォーマルを纏った。

三年前に作ったフォーマルは裕斗に誂えた様にぴったりで、俺もこんなに細い時があったのかと思った。が。

俺はその頃既に今の裕斗より身長があった筈。

自分では脚は長いつもりだっただけにちょっとショックだった。


「よかったぴったりで」

「…よかったな」


小さな壁掛けの鏡の前でワックスで髪を整える裕斗。
トレードマークなピアスは全て外されている。

髪型も大人しい。


「何見てんだよ、まだ俺に気いあんの?」

「まさか、俺はお前なんかどうでもいーし、つかめちゃめちゃむかつく」

「……、……」


「……」




人の事言えない立場だけど、やっぱり惇を抱いた裕斗を許せない。


惇が裕斗に頼り、向けたあの甘い眼差しが瞼から離れない。


裕斗はじっと辛そうに俺を見つめて




「ごめん」





と、小さな声でやっとという感じで吐きだした。



俺は、何も言えないまま、








俺達は無言でホテルを出て、タクシーに乗り込んだ。

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