《MUMEI》

 「か、家宅捜索だと?この家を?」
互いに重い足取りで向かったラング・ユーリ邸
到着するなり応接室へと一応は通されソファを勧められる
それをやんわりと断ると、警察からの令状を卓上へと叩きつけた
「これは?」
「見てお解りでしょう。警察からの令状です」
「令状?な、何の為に?」
「私達(Dolls)は警察の管轄下にあります。この度依頼を受けましてね。この近隣の民家の庭で人形のパーツが見つかった、と。思い当たる処といえば、此処しかなかったもので」
長い説明に、段々とラングの顔色が変わっていく
その変化を、サキは見逃さなかった
「な、何の事か分からないな。大体、此処を調べた処で何も……」
「なら、調べさせて戴いても構いませんね。何も、出てこないのであれば」
言って終りに、卓上に果物と置かれていたナイフを手に取って
そして徐に斬って裂いたのは腕の肉
流れ落ちて行く多量の血液が床を広く汚していった
「しょ、所長!?何やってんだよ!」
サキの奇行に当然慌て始めるコウ
だがサキは口元に薄ら笑いを浮かべながら
「今から、面白いもん見せてやる」
よく見とけ、と笑った
手の平に付いた血液で床に書く術印
普段のソレとは違い、その印はかなり巨大で
床一面、術印が広がる
「……これは一体」
驚きに上擦った様な声をラングは上げ
サキは口元に嘲笑を浮かべると印の上に血に塗れた手を付いた
発光を始める印
同時に、屋敷中に悲鳴が響き始め
サキ以外の二人の視線がそちらへと向けられる
「女の悲鳴ってのは耳に痛ぇな。喧しくて仕方ねぇ」
心底嫌そうに顔を歪めながら徐に床へと視線を落とす
次の瞬間
床が解ける様に消える事を始め
其処から大量の人形の欠片が湧いて現れる
造られてそのまま放置されていたのか、朽ちる事無く未だ動く
「……コウ、マリア嬢連れて来い」
視線はそのまま、コウへと頼む事をする
いきなりのソレに、その意図を理解出来ずに居たコウだったが
取り敢えずはマリアの部屋がある二階へ
コウに伴われ降りてきたマリアは随分とやつれたように見える
「マリア!!」
ラングは慌ててマリアの傍らへ
近く寄りその身を抱きしめながら、サキを睨みつけた
「その印の所為か……。貴様、一体何を……!?」
「別に何も。唯……」
途中、わざわざ言葉を区切り、隠し持っていたカード式のナイフを懐から取って出す
ソレをラングの喉元へ
「俺にも操れるかと思ってアンタの人形に(介入)してみただけだ」
「す、直ぐに止めろ!このままではマリアが!!」
壊れてしまう、との訴えに
サキは何を返す事もせず
唯々、無表情を向けて返すだけ
「き、貴様は自分の造った人形に愛着を持つことをしないのか……?」
「興味ねぇんだよ。それより」
動揺の余り言葉を詰まらせるばかりのラングへ
聞きたい事がある、と間合いを詰める
「聞きたい、事だと?」
「そうだ」
「一体、何を……」
「人体生成の事だ。テメェを唆したのはだれだ?まさか人形師でもないテメェが独学でそれほどの術を身に付けたとは思えんモンでな」
黒幕は誰だ、とナイフを更に押しつけ凄んでやる
「……しょ、少女だ。ある日、見知らぬ少女が突然現れて、ソレで……」
ラングが言い訳に語り始めた
その矢先に
『……私が教えてあげたのよ』
あの少女の声が聞こえ
淡い光の粒子を纏いながら少女は現れた
『たくさん造って貰ったら、私の身体出来ると思ったから……』
「テメェの身体だぁ?」
何の為に、と訝しむサキへ
少女は満面の笑みを浮かべながら、だが何を返してくることもせず
不意に姿を消したそして直後にコウの傍ら
可愛らしく、子供らしい笑みを浮かべた
『……ね、お兄ちゃんの身体頂戴』
「は?」
「私、おじさんの傍に居たいの。だから、お兄ちゃんの身体、欲しいの」
「な、何言ってんだよ。お前」
顔を顰めるコウ
その頬へ、少女の手が不意に触れた
「大丈夫。私がお兄ちゃんになっておじさんの傍に居てあげるから、ね」
唇を寄せ呟く少女
何故か脈絡なく口付けを求められ
コウが拒むより先に、サキがナイフを投げつけそれを阻んでいた
「下らねぇ事ペラペラと。少し黙ったらどうだ」
「おじさん?どうしたの?すごく怖い顔」
わざとらしく怯えた様に身を竦ませ
造り過ぎたその様に、腹ばかりが立つ

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