《MUMEI》
・・・・
 「――それで、貴様らはこのワシを出汁に殺人鬼を捕らえるか」
 末恐ろしいとはこの事だ。名立たる権力者や貴族たちですら触れようとしない男を、二十歳そこそこの青年が餌として利用しようとしている。年を重ね、ちからを蓄えた彼らとこのように対峙することが出来るだろうか。
 ツヴィはその図を想像することが出来ない。緩やかに衰えは感じていたが、隠居の身になってからはそれをさらに強く感じている。彼がどう足掻こうが世代交代の時だった。
 諦めたように乾ききった声で笑う姿が、不気味に映りエドは身構える。
 「貴様らの勝ちだ。なんでも答えてやろうぞ」
 これからが本番だと覚悟を決め身構えていたエドは、降参を宣言した偏屈じいさんに拍子抜けしてしまった。
 俺たちのような騎士は、じいさんからしてみれば餓鬼も同然。その餓鬼が自分を出汁に使おうとしてるんだ。カッとならないのか。
 逆鱗に触れると踏んでいたエドだ、拍子抜けも仕方無い。貴族たちを牛耳っていた男が、カイルとの二言三言で白旗を上げてしまった。思いもよらなかっただろう。
それは息子であるモーリスも同じだったようで、開いた口が閉じないでいる。

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